フィジカルAIは製造業に革命を起こせるか?


結論:短期的にはたぶん無理

長期的には期待


半導体株や電線株にはDC特需があったが、フィジカルAI関連銘柄は後ろ盾となる特需がない景気敏感株であることに注意!

フィジカルAI製品が売れなければそれまで。


はじめに

この記事は金属加工の工場で働く作業員が個人の感想として執筆しています。

特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。

製造業の現場に焦点を当てているため、他の産業や家庭におけるフィジカルAIには別の見方があると思います。

この記事の文章は生成AI使わずに書いています。



フィジカルAIが短期的には厳しい理由①

自動化は既にある程度進んでいて、利益を取れる領域が少ない


皆さんはマヨネーズの製造工場を見たことはあるでしょうか?

YouTubeでキューピーの動画が公開されています。

動画は別に見なくてもいいのですが、ポイントはめちゃくちゃ自動化されているという点です。

卵を割る工程なんて動体視力の検査かと思うくらい高速で、ボトルにマヨネーズが詰め込まれるのも完全に自動です。

賞味期限の印字もセンサーで文字を認識し全自動で確認しているようです。

これ以上何をしたら生産効率が上がるのか正直わかりません。


自動化しやすい条件を箇条書きしてみました。

1.生産量が多い

2.季節や年による需要量の変動が少ない(あるいは需要が読めた上で作り置き可能)

3.材料と完成物の大きさや形状が安定している

4.製品の新規開発や変更が少ない

5.不良品が出にくいもしくは発見しやすい

他にも色々ありますが、上記の5点は特に影響度が高い項目です。

マヨネーズという製品は少なくとも1〜4が高水準なため、既にゴリゴリに自動化されているのです。


既に自動化されているラインに割り込むには相当の経済性が必要で、あまりにもハードルが高いです。

つまりフィジカルAIがすぐに自動化に絡めるのは今まで自動化されなかった理由がある領域に限られます。


生産量に関してはフィジカルAIでは問題の解決にはなり得ないと思われます。

材料の不安定さによって難しいから自動化されてこなかった製品はフィジカルAIを採用する余地があります。

製品の変更や新規品が多いことで今までは採算が取れなかった自動化も、フィジカルAIなら対応できる可能性があります。

不良品の検知と対応もフィジカルAIなら高レベルで実現できる可能性があります。

こうやって並べると参入余地が大きいようにも見えますが、製造業において生産量は何よりも大切な要素と言っても過言ではありません。

最も利益が出せる美味しいところは既に限界まで搾り取られた後なのです。

汎用性の低い自動ラインで1ヶ月に100個しか売れない製品を1000個作るメリットは限られています。



フィジカルAIが短期的には厳しい理由②

設備の更新時期を待たないと導入されにくい


私の勤務先では社長が調子に乗って加工機を導入しすぎた結果、在庫が増えて稼働を止めるという悲劇が起きています。

しかもそれが特定の製品しか加工できない機械で、需要が回復するまでは完全にコストを垂れ流すだけになっています。

つまり弊社はフィジカルAIの導入どころではありません。


これは極端な例だとしても、新しい設備を導入する際に古い設備が必要なくなるケースがあります。

売却できるような設備ならまだ良いですが、自社製品のための仕様になっていて難しいことも多々あります。

そうなると現在の設備が費用を回収できるだけ稼働したと判断されないと次の設備には移行しにくいところです。


また、製造設備の寿命は恐らく皆さんが想像しているよりも長いです。

弊社には30年以上動いている機械が2台あります。

難易度の低い加工でも需要が不安定だったり安定していても少量だったりする品目は赤字になりがちです。

新しい機械を導入するとコストが厳しくなりますが、古い機械なら減価償却はとっくに終わっていて、稼働しない間の機会損失も問題にならないため便利な生産調整枠として使用され続けるのです。



フィジカルAIが短期的には厳しい理由③

人間の方が安い可能性がある


今後、データセンター等で需要が高まれば電気代の高騰が続く恐れがあります。

人間を働かせた方が安上がりになればフィジカルAIを採用するメリットは大きく損なわれます。


受注生産品の場合は生産性が高まれば注文が入ってから製品が完成するまでの時間が短くなり、短い納期を付加価値として製品価格を上げられる可能性はありますが……電気代の高騰に勝利するのは厳しいと思われます。

工場の電気代は一般家庭の家計とはかけ離れた莫大なコストです。


加えて外国人労働者も見過ごせません。

都会でホワイトカラー業務に就いている方からは想像しにくいかもしれませんが、外国人労働者は既に当たり前の存在となっています。

私の部署では日本人よりベトナム人の方が多いです。

近所の園芸業者にも農産物の卸売りにも外国人が多数勤務しています。

彼らは薄給と自虐する私よりも低い賃金で雇われています。

フィジカルAIがコスト競争を挑む相手は非常に強力です。



短期予測まとめ

ここまでフィジカルAIが短期的には普及しにくい理由を挙げてきました。

もちろんこれらは短期目線に限定した話です。


現在の製造設備もいつかは更新しなければなりません。

どうせスイッチングコストが発生することが確定しているのなら、フィジカルAIの採用も有力な候補に挙がるでしょう。


外国人労働者もあと何年くらい日本で働いてくれるのかは不透明です。

円安が続けば割に合わなくなり日本を去る可能性も高まります。

次は長期目線の話に移りたいと思います。



フィジカルAIが長期的には期待できる理由①

服を買いに行く服がない


自動化された設備も実際にやっていることはセンサーで判定してONかOFFの2択もしくは測定値を参照して補正をかけるくらいです。

それを複数組み合わせて連続で行っているので複雑な自動化が成立しているに過ぎません。


既存の設備はセンサーの判定に問題があっても、ただアラームを出して停止するだけです。

一応ある程度の停止回避策はあったりもしますがそれ自体がコストになるし全部の停止要因を排除するのは到底不可能です。

AIであればセンサーの判定に問題が発生した時に、それがどのような問題でどのような処置をすれば良いのか判断することが可能です。

フィジカルAIならその処置を実行することまで可能になります。

どこをどのように調整すれば再発が防げるかまで教えてくれるかもしれません。

これは作業員目線だと革命的な差です。


新しく自動で加工してくれる機械を導入したら作業員は楽になると思いますよね?

全然そんなことないです。

一発でうまく稼働する可能性なんてほぼゼロです。

新規品ならともかく、2020年代まで自動化されてこなかった製品なんて作りにくいに決まってます。

せめて材料が安定していればマシなのですが、コストの都合で安くて不安定な材料を加工させられます。

アラームが出て、調整して、またアラームが出ます。

大きい会社なら技術系社員が担当してくれるのかもしれませんが、小さい会社は安い給料の現場作業員に丸投げするしかありません。

通常の生産と新規設備の立ち上げを上手いこと両方やらせようとして失敗するのがお決まりのパターンです。

ここで最大の問題は作業員が不足するといつまでも生産が捗らないということです。

機械を導入したのになかなか稼働率が上がらない、どうにかするために人を投入する、機械を調整した後は不良品が出ないかどうかの検証も度々発生する、不良品が出たら対策する……

でも通常生産の納期は待ってくれない。

人が足りないから自動化したはずなのに、自動化する人が足りない。

服を買いに行く服がない状態に陥るのです。


フィジカルAIが自動化のための人手が少なくても対応できる方向に進化する可能性は高いと思います。

既に効率が良い大型設備の置き換えが困難な以上、必然的に小規模生産もターゲットにするはずです。

需要はあります。

人手不足倒産は今後も増加し続けるでしょう。

私の勤務先の取引先でも後継者がいないため廃業となった工場があります。

その工場に依頼していた仕事は設備を買い取り内製化することで対応しましたが、生産コストは上昇してしまいました。

依頼していた時は同一の設備で加工できる仕事が複数あったので採算が取れていたのでしょうが、内製化した我々にとっては用途が限られる設備となり効率が低下しました。

自動車で考えてみるとわかりやすいと思います。

多く走ればガソリン代等のランニングコストが増えますが、全く走らなくても車検や税金等の固定費は変わりません。

生産設備の場合は固定費を稼ぐためにある程度の稼働率を維持しないと設備を持つこと自体の採算が取れなくなります。


そんな訳で人が足りないのに稼働率は上げないと採算が取れないという状況はフィジカルAIの底堅い市場になると予想しています。



フィジカルAIが長期的には期待できる理由②

多品種少量生産を自動化できるなら青天井


現在でも数値制御の加工機はスイッチを入れればプログラム通りに加工してくれます。

何回でも精密に同じ加工を繰り返してくれるし、加工できる状況(以下段取りと呼称します)を整えればチンパンジー並みの作業員でも量産に携わることが可能になります。

一方で、段取りはかなりの手間です。

プログラムは過去に作成したものであれば簡単に切り替えられますが、新規作成の場合はテスト加工を含めると丸1日持っていかれる可能性もあります。

何らかの悪条件があれば更に延びるでしょう。

加工用の刃物は何本も取り付け可能ですが、切り替えたら調整が必要になります。

刃物の刃先は消耗品なので頻繁に交換します。これは大した手間ではないですが頻繁なことが問題です。

加工する品物を切り替える際は固定するための器具を交換したり作り直したりする必要があります。

毎日同じ加工を続けるなら刃先の交換だけで済みますが、他の項目は時間がかかります。

この部分はフィジカルAIでの対応はほぼ不可能に近いと思われます。

しかし加工機がフィジカルAIの存在を前提に進化するなら可能性はあります。

段取りの手間が嵩んで既存の自動化を採用するメリットがほぼない多品種少量生産の完全自動化が成立するのであれば、正しく革命です。

多品種少量生産においては価格と品質だけでなく納期も重要な競争力です。

完全自動化で納期を短縮できるなら多少のコスト増は価格転嫁する余地があります。

私の加工品も品種によってはボッタクリ価格ですが短い納期でそれを正当化しています。

価格次第では既存の加工機のほぼ全てを短期間で置き換えることも可能でしょう。



フィジカルAIが長期的には期待できる理由③

新しい加工方式が誕生する可能性がある


複雑な加工は今までも存在しました。

品物を回転方向に動かしながら上下左右も同時に動かして加工できる機械や、品物を掴むチャックが2つ付いていて両方同時に加工できる機械など色々あります。

これらはプログラム作成や段取りが面倒ですが、複雑な形状を作れたり効率よく加工できたりするメリットがあります。

もしプログラム作成や段取りをAIに任せる前提で加工機を作るのであれば、人間には不可能な超高難易度加工を成立させられるのではないでしょうか。

具体的に何ができるのかと聞かれると困りますが、将来的にはそれも人間が考えるよりAIに聞いた方が優れた答えが出てくるようになるでしょう。

そういった未知の領域にも期待する余地はあります。


銘柄選定

じゃあどの銘柄を買えばいいのか、という話ですがぶっちゃけわかりません。

ファナック(6954)、三菱電機(6503)、安川電機(6506)、SMC(6273)あたりはシェアが取れなかったら既存事業の収益を失う可能性が高いためかなり本気を出してくると思われます。

ただしSMCはフィジカルAIが空気圧に頼らない方向に進化した場合は非常に厳しいです。

上流の方だとソフトバンク(9984)、日立製作所(6501)、富士通(6702)が強そうです。

下流だとナブテスコ(6268)とか不二越(6474)、各ベアリングメーカーなんかも該当します。

どちらもフィジカルAI以外で値動きする要素を多く抱えているという問題があります。

重工株とかも絡んではいますが、他に背負ってるテーマが多すぎて当てにできません。

製造業に広く関連しすぎてフィジカルAIを単独で考えるのは難しそうです。

フィジカルAIだけをテーマにしたいならハーモニック(6324)は恩恵が大きそうですが工業用途というよりはヒューマノイド系の需要なのでこの記事の内容からは外れる存在です。


名前は出せませんが私の勤務先も思惑買いが入ったものの完全に的外れだったことがありました。

小型株に投資するなら数字に裏打ちされた明確な根拠を持ちましょう。

イメージ先行は絶対にNGです。


最後に

フィジカルAI関連銘柄の大半は景気敏感株なので景気が危うくてもモメンタムパワーでゴリ押す展開には期待できません。

景気後退時にはそもそも効率化すべき生産自体が縮小することが、半導体や電線のようなDC特需株との最大の違いです。

同じ感覚で投資をするのは危険です。

AI疲れからHALO投資なんかも流行りそうだし、日本の製造業に広くかかるバフくらいに思っておくのがちょうどいい距離感かもしれません。


余談①

ファナック、安川電機、富士通はNVIDIAと連携しているのでイベント等の新技術発表がありそうなタイミングがあればピンポイント狙いも悪くないと思います。


余談②

機械工具メーカーは生産性向上によって消費量が増える……かと思いきやAI提案で加工条件を最適化した結果、同じ量の工具でより多くの製品を作れるようになるというオチが待っている可能性があることには注意が必要と感じます。

長持ちする工具で段取り回数を減らせることを付加価値としてきた製品は、段取りの自動化で立場が危うくなります。

上で挙げた銘柄の中では不二越が機械工具メーカーに該当します。


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